「治療」から「予測」へ 日本の従業員メンタルヘルス市場、2028年義務化前夜の構造変化

従業員のメンタルヘルス対策は、法対応や不調者への事後支援から、データを活用した予測・予防へと転換しつつあります。本稿では、2028年のストレスチェック義務化を見据え、市場構造の変化と企業に求められる対応、新たな事業機会を読み解きます。

読了時間:約3分
監修者

内藤 脩平

株式会社NSJAPAN 代表取締役CEO

株式会社NSJAPAN代表取締役CEO。伊藤忠テクノソリューションズで年間6億円規模の案件を担当し、約300社の提携ベンダーとの協業を経験。現在は、複数業界の新規事業において、事業戦略、収益設計、営業組織構築、投資判断までを一貫して担う。

経営戦略新規事業開発営業戦略組織構築
著者

日山 英光

株式会社NSJAPAN CTO株式会社LIC 代表取締役

株式会社NSJAPAN CTO、株式会社LIC代表取締役。保険、決済、賃貸管理領域で、要件整理、設計、開発、検証、運用保守までを一貫して経験。現在は経営と技術の両面から、事業課題に基づくシステム構想、AI・DX導入、開発体制の設計を担う。

技術戦略AI・DX戦略プロダクト開発システム設計
「治療」から「予測」へ 日本の従業員メンタルヘルス市場、2028年義務化前夜の構造変化

サマリー

  • 日本の従業員メンタルヘルス市場は、2028年5月までに全事業場で施行されるストレスチェック義務化を前に、「事後の治療」から「事前の予測・予防」へと重心を移す構造的な転換点にある。
  • 2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法は、これまで50人以上事業場に限られていたストレスチェックの義務を、全国の全事業場へ拡大する。対象となる事業場数は一気に約20倍に膨れ上がる。
  • 同時に、精神障害による労災認定は令和6年度に1,055件と過去最高を更新し、メンタル不調による年間経済損失は約7.6兆円と試算されている。

本稿の主張は3点である。
第一に、ストレスチェックSaaS市場はコモディティ化が進む。
第二に、主戦場は「予測・リスク層化」と「経営ダッシュボード」。
第三に、勝者はMRR型のストック収益モデルを持つ事業者である。

1.なぜ今なのか ― 3つの追い風

日本の従業員メンタルヘルス領域は、長く「義務だからやる」領域だったが、2026年を境に構造的に変化している。

背景には、3つのトレンドが同時に動き始めたことがある。

1-1.法制度

2025年5月に改正労働安全衛生法が公布され、ストレスチェックは全事業場へ拡大予定となった。

対象は約300万事業場以上に増加する。

小規模事業場では、人事や産業医が存在しないケースが多く、従来のパッケージ型サービスでは機能しない。

そのため、検査だけでなく運用まで含めたサービス設計が必要になる。

1-2.統計

精神障害による労災認定は1,055件と過去最高。

メンタル不調による経済損失は約7.6兆円。

この損失の大半は、出社しているがパフォーマンスが低下している状態、いわゆるプレゼンティーズムによるものである。

つまり、見えない損失こそが最大の経営課題である。

1-3.技術

遺伝子検査、バイオマーカー、ウェアラブルの進化により、メンタル状態の予測が可能になってきた。

企業にとって重要なのは診断ではなく、「誰に、いつ、何をするか」という意思決定である。

予測はこの意思決定を支えるためのものとして機能する。

2.市場の4層構造

メンタルヘルス市場は以下の4層に分かれる。

Layer4:経営ダッシュボード
Layer3:介入
Layer2:予測・リスク層化
Layer1:スクリーニング

Layer1はすでに価格競争状態。

Layer2とLayer4が今後の主戦場となる。

単一レイヤー戦略は成立しない。

3.勝者の型

モデルA:スクリーニングSaaS型
量で勝つが、単価低下リスクが高い。

モデルB:予測×チャネル型
OEMや提携で拡張し、MRR化しやすい。

モデルC:コンサル内包型
Layer2〜4を統合し、経営層に直接価値提供する。

4.よくある誤解

誤解1:マス向け市場
実態はB2Bの限定市場である。

誤解2:プロダクトで売れる
本質は経営課題の言語化である。

誤解3:単発売りで成立
MRR化しないと中長期で崩壊する。

5.経営者への5つの問い

自社はどのレイヤーに立っているか。
ターゲットは絞れているか。
営業は仮説ベースになっているか。
MRR戦略はあるか。
データを経営指標に変換できているか。

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著者プロフィール

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日山 英光 著者 日山 英光 株式会社NSJAPAN CTO

株式会社NSJAPAN CTO、株式会社LIC代表取締役。保険、決済、賃貸管理領域で、要件整理、設計、開発、検証、運用保守までを一貫して経験。現在は経営と技術の両面から、事業課題に基づくシステム構想、AI・DX導入、開発体制の設計を担う。